福岡地方裁判所 昭和27年(行)27号 判決
原告 薙野政喜
被告 福岡検察審査会
一、主 文
原告の請求はこれを却下する。
訴訟費用は原告の負担とする。
二、事 実
原告は、「被告が昭和二十七年七月二十一日山下吾吉、中村嘉明両名に対する背任、業務上横領被疑事件の不起訴処分に関する原告の審査申立に対してなした不起訴処分を相当とするとの審査議決は之を取消す。被告は右被疑事件につき福岡地方検察庁に対し起訴の勧告手続をせよ。訴訟費用は被告の負担とする」との判決を求め、その請求の原因として、「原告は証券取引業者である訴外山一証券株式会社福岡支店から昭和二十二年九月二十六日より同年十月二十四日迄の間に東洋紡績株式会社株式総計八千株この株金額総計金百二十四万六千円(一株金百五十八円五十銭のもの三千株、同金百五十六円五十銭のもの千株、同百五十七円のもの千株、同百五十七円五十銭のもの五百株、同百五十八円五十銭のもの千五百株、同百四十円五十銭のもの千株)を買受け、又証券取引所の関係で右支店に昭和二十一年九月五日三菱重工業株式会社の新株式一株金五十円のもの千株を、昭和二十二年十月現金二万三千円を預けた。然るに当時訴外山下吾吉は右福岡支店の支店長として、又同中村嘉明は同支店株式売買係として、前記証券取引の業務に関し共謀の上、不法にも原告の買受け及び預けた右株式を他に処分し、現金は着服したのである。よつて原告は右行為を不当として昭和二十五年五月十五日右両名を背任、業務上横領として福岡地方検察庁に告訴したが、同庁検事福田巻雄は該事件を昭和二十六年三月十八日不起訴処分になした。原告はこれを諒とせず昭和二十七年五月被告に対し右不起訴処分の審査申立に及んだところ、被告は同年七月二十一日右不起訴処分を相当とする旨の議決をしたが、右審査議決には次の不当がある。すなわち被告は原告と前記福岡支店との間に東洋紡績会社の株式八千株の売買契約がなされたことは認められるが、本件の如き多額の取引に於ては証券会社は自衛上取引先に対し該取引額の二割程度の保証金の払込を要求することは当然であつて専門的助言者の意見亦軌を一にする。よつてかゝる保証金の払込を為さない申立人の主張はとり得ないと第三者の意見のみにより原告の提出した証拠並びに主張を採用せず右成立した売買を簡単に効なしと断定的に議決している。又本件につき原告が証拠として提出した右福岡支店の手合帳の写によれば、昭和二十二年十一月二十四日原告の知らない方法により原告が東洋紡績株式会社の株式七千株一口、同八千株一口を福岡支店に売渡し、同支店は訴外浜口嘉人に売渡し、同人は更に福岡支店に売渡し、同支店は更に山一証券株式会社大阪支店に売渡したことになつているので、本件株式八千株の横領背任も一見して判明しており、この事実につき原告は訴外浜口嘉人よりの売買の事実はない旨の証明書を提出したが、被告は全然これに対し審査をしていない。又三菱重工業株式会社の株弐千株及び現金に関しては被疑者両名の弁解のみで罪とならずとされたのである。よつて原告は被告の右審査議決を取消し、被告に対し福岡地方検察庁に起訴の勧告手続をすることを求めるため本訴に及んだ次第である。」と述べた。
被告代表者は、主文同旨の判決を求め答弁として、「被告が原告主張の日その主張のような審査申立事件につき、その主張のやうな議決をしたことは争わないが、本訴は次の理由により不適法である。すなわち検察審査会制度は検察事務の遂行に民意を反映させることを目的とし、そのため検察審査会は(一)検察官の不起訴処分の当否の審査(二)検察事務の改善に関する建議又は勧告のみをその任務とするものであり、これはすなわち司法目的に奉仕し刑事司法運用の一端を担当する準司法機関ともいうべきものでその議決は準司法処分というべく従つて一般行政処分とその性質を異にし行政事件訴訟特例法にいう行政庁の処分に該当しないのである。よつて原告の本訴請求は不適法として却下されるべきである。」と述べた。
三、理 由
現行法上公訴権は刑事訴訟法第二百六十二条以下において唯一の例外を設けた外検察官に専属し(同法第二百四十七条)検察官は事件が告訴告発その他の請求によると否とを問わずその裁量によつて事件の起訴不起訴を決定する権限を有するのであつて、検察官の不起訴処分に不服がある者は検察審査会法により検察審査会の審査を求める方法によるか或は職権濫用罪(刑法第百九十三条乃至第百九十六条)の場合につき前記刑事訴訟法第二百六十二条以下の規定に従い裁判所の審判を請求する方法によるべきであり、且つ右の方法による以外に検察官の不起訴処分の適否を争う余地はないと解される。而して検察官の不起訴処分につき検察審査会に対し審査の申立がなされ検察審査会がその当否につき審査を行い議決がなされたときは検察審査会法にはその議決に対する不服方法につき何らの定がなく、又裁判所と検察庁の機能を判然と区別したわが刑事訴訟制度の原則に照して考えると検察審査会の議決に対してはもはや別に行政事件訴訟として裁判所に之が救済を求めることはできないものと解すべきである。よつて原告の本訴請求は裁判所の裁判権のない事項を目的とするものであるから不適法としてこれを却下することとし訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八十九条を適用して主文の通り判決する。
(裁判官 高沢三吉 大江健次郎 高橋正憲)